最近「終活」というワードをよく耳にします。終活とは人生の最期に向けて、家族や大切な人が困らないよう、また、ご自身が安心できるよう、さまざまな準備をすることを指します。「エンディングノート」もそんな準備のひとつです。エンディングノートの役割や作成するメリット、書いておきたい項目などについて解説します。
エンディングノートとは?
エンディングノートとは、自分がいなくなった時に備えて、お金周り(年金・保険・預貯金・財産や、自動引き落としになっているものなど)の情報、友人などの連絡先、相続の希望などをまとめておくノートのことで、終活ノートとも呼ばれています。
“エンディング”と名前はついていますが、上記のような情報は日常生活のさまざまな場面で必要となるものです。例えば、病気やケガによる急な入院、保険や補償を請求する時はもちろん、情報がまとまっているので引越しの準備や財布やスマホの紛失時など、さまざまな変更手続きが必要な時にも役立ちます。
記載しておきたい項目は後述しますが、さまざまな「もしも」に役立つことをまとめておくのが、エンディングノートなのです。
エンディングノートと遺言書のちがい
エンディングノートに記載したあれこれは、遺された家族の参考情報としておおいに役立ちますが、法的な効果は発生しません。法的な効果を求める場合には、遺言書を作成することをおすすめします。
日本では遺言書は「財産のある人が高齢になってから準備するもの」というイメージがあります。しかし、実際には遺言書は「満15歳に達したものは、遺言をすることができる(民法第961条)」とされ、何度でも書き直せます。遺言書には、全文を自筆で作成・自宅で保管する「自筆証書遺言」と、専門家に相談して公証役場で作成・原本保管(正本・謄本は遺言者が保管)する「公正証書遺言」があります。
家族や大切な人の心労を少しでも軽くするため、また、防犯や保険のような「もしもの時の備え」として、若くても財産がなくても、エンディングノートや遺言書は作っておいたほうがよいものです。
エンディングノートを作成するメリット
エンディングノートを作成しておくと、以下のようなメリットがあります。
終活でやるべきことを整理できる
葬儀はどうするのか、誰に連絡するのか、延命処置について、介護についてなど、その時になってからご自身の希望を伝えることは困難です。そうした情報を整理しておくことで、足りない情報は何か、準備不足はあるかなどの洗い出しになり、終活に向けて何に手を付けるべきかが明確になります。
万が一の時に、本人の意向を反映できる
亡くなった時の備えとしてだけでなく、もしも自分の判断力が衰えたり、コミュニケーション能力が低下したりしたとしても、家族がエンディングノートを見ることで、ご自身の意向に沿った選択が可能となります。
家族の負担を減らせる
もしもの時は、ご家族や友人は悲しみの中でさまざまな準備を進めなくてはなりません。エンディングノートがあることで、周囲の人はさまざまな選択が容易になり、精神的な負荷がぐっと軽減されるはずです。ご自身の万が一に備えることは、家族や友人へ大切に想う気持ちを伝えることにつながります。
日常生活でも役に立つ
先に解説したように、生活に関するさまざまな重要事項がまとまっているため、急な入院はもちろん、引越し時や財布・スマホを紛失した際にもエンディングノートが役立ちます。
エンディングノートの選び方
実際にエンディングノートを準備するにあたって、必要な項目を解説していきます。
ノートの種類
ノートの種類は、いわゆる大学ノートでも、ルーズリーフでも、何であっても構いません。初めてエンディングノートを作成する場合には、あらかじめ記入項目がまとまっている市販のエンディングノートが便利です。
また近頃では、スマートフォンのアプリケーションという形のエンディングノートもあるようです。ご自身が書きやすい、分かりやすいと思ったものを選んでみてください。
形式や記載内容は自分で自由に決められる
エンディングノートの記載内容は自由です。形式も特に決まっていないので、ご自身や家族が読んで分かるようにまとめておけばOKです。次で解説する「エンディングノートに書くべき項目」もぜひ参考にしてみてください。
エンディングノートに書くべき項目
エンディングノートは書く内容も自由ですが、そのため何を書けばいいのかわからず、なかなか着手できないという声も聞かれます。ここからは、エンディングノートに書いておきたい、基本的な項目を解説します。
自分や家族、友人の基本情報
ご自身の基本情報は手をつけやすく、エンディングノートの書き始めにおすすめです。氏名や本籍地、現住所、生年月日、電話、勤務先情報を書いておきましょう。健康保険証・運転免許証・パスポート・マイナンバーなどの記号・番号も控えておくと、紛失の際にも役立ちます。
また、昨今はスマホやSNSに頼りっきりで、いざというときに大事な連絡先を誰も知らなかったという事態もあり得ます。家族や友人、習い事やサークル、懇意にしている店や業者についても、氏名(社名・店名)・住所・連絡先をまとめておきましょう。友人・知人の欄には家族が連絡とりやすいように、「高校時代の友人」「前職の先輩」など関係性も記録しておきます。
お金周りのこと(預貯金・資産・口座引き落とし・借入金やローンなど)
財産(負債も含む)お金周りのことは、ご自身しか把握していない項目も多いもの。ご家族が行うさまざまな手続きの負担軽減や、また、財産分与の際に全体を把握しやすくなるといったメリットがあります。
金銭にまつわる項目の例
記入項目 | 注意点 | |
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預貯金 |
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有価証券などの金融資産 |
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そのほかの資産 |
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クレジットカード |
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飼っているペットについて
大切なペットの世話ができなくなる場面をシミュレーションして、ペットに関する情報を残しておきましょう。家族が面倒を見るのか、知人(事前に相手の承諾が必要)に引き取ってもらうのか、もしもの時にどうしたいかを記入しておきます。
そのほか、かかりつけの動物病院やトリミングサロン、加入しているペット保険、いつもの・好きな・嫌いなエサなど、お世話する人が困らないように項目を作ってみてください。
家族や友人への感謝の気持ちを残す
家族や友人、お世話になっている方などに、メッセージを残しておくのもよいアイデアです。いざ書こうとしても内容がまとまらないといった場合は、「◯◯へ いつもありがとうございます」など一言あるだけでも、受け取る方にとっては大切なメッセージとなるはずです。
ちなみに、遺言書でも「付言事項」といって、メッセージを残しておくことができます。
葬儀について
もしもの時のために、ご自身の葬儀の考え方や希望を記入しておきましょう。たとえば以下のような項目が想定されます。
- 葬儀の実施(しなくてよい、してほしいが盛大でなくてよい、まかせる、など)
- 葬儀の宗教(菩提寺がある場合や、特定の寺社・教会がある場合は所在地等も)
- 喪主になってほしい人、あいさつをお願いしたい人、準備を取り仕切ってほしい人、会計や受付をお願いしたい人など
- 葬儀業者や会場(生前予約済み、葬儀社の会員である、特に準備はないが希望としては…など)
- 戒名の希望(お金がかかってもよい戒名がよい、葬儀の都合で必要ならなるべくお金をかけずに、つけてほしくない、すでに戒名を持っている場合は受戒した寺・宗派)
- 遺影に使ってほしい写真、葬儀で流したい音楽(データがあれば保管場所なども)
- 香典、供花について(いただく、辞退する、まかせる、など)
香典返しについて
上記の葬儀についてのご希望と合わせて、香典返しについても具体的な希望があればエンディングノートに記入しましょう。
ご希望の品物名や店名まで記しておくと葬儀を準備される方に親切です。
この際、香典返しと一緒に、参列していただいた方へのご挨拶を書いておくのもよいでしょう。会葬礼状に使用するのか、葬儀の際などに読み上げていただくなどのご希望も書き記します。イラストやお気に入りの写真などを添えるのもよいかもしれません。
お歳暮・お中元などのギフトリスト
お歳暮やお中元などの季節のご挨拶のやりとりがある方の氏名と住所、どんなギフトをやりとりしているかについても記入しておくと、交友関係の記録の意味でも重宝です。
遺族の方に継続してやりとりをお願いしたい場合は、その旨も記しておきましょう。
同様に、年賀状のやりとりリストについても、記入しておくと便利です。
エンディングノートを書くときの注意点
クレジットカードや銀行口座の暗証番号は記載しない
エンディングノートの紛失時などに備え、クレジットカードや預貯金、有価証券などの暗証番号やパスワードは決して書かないようにしましょう。
遺産の引き継ぎ方に関しては遺言書に記載する
先に述べたように、エンディングノートは家族の参考情報として役立ちますが、法的な効果はありません。法的な効果を求める場合は、遺言書の作成をおすすめします。遺言書を作成したら、エンディングノートに遺言書の種類、保管場所、最新更新日、相談している専門家の氏名・連絡先などを書き留めておきましょう。
エンディングノートの保管場所
エンディングノートは個人情報の塊のようなもの。貴重品と同様に持ち歩くことは極力避けて、大切に保管しておきましょう。ただし、たとえば天井裏に隠すなど、誰もその場所を見つけられなかったり、書き直すのがめんどうになったりするような場所は、エンディングノートの性質上、適当ではありません。
エンディングノートの保管場所に向いているのは、本棚、食器棚、机の引き出しなど。むやみに見られることがなく、その反面、家族にとっては見つけやすい場所を考えてみてください。家族や信頼のおける人など、ノートを見てほしい方には、保管場所を伝えておくとよいでしょう。