店頭やオフィスで、また神棚のあるお宅などで、縁起物で飾り付けられた大きな熊手を見かけたことはないでしょうか。それはもしかしたら、酉の市で商売繁盛や家内安全などを願って求められた熊手かもしれません。
酉の市とは?
11月の酉の日に大鷲(大鳥/おおとり)神社などで立つ市
年月日に十干と十二支を当てはめる干支暦(かんしれき)。酉の市(お酉さん)は、毎年11月、この干支暦でいう「酉の日」に立つ市(いち/露店などの集まり)のことを言います。市が立つ場所は日本武尊をまつる各地の大鷲(大鳥/おおとり)神社が中心で、参道周辺に多くの店が立ち並びます。
縁起物の熊手は来年の福や財を「掻き込む」とも「鷲づかみ」とも
市が立つといっても食材や料理、飲み物などを売るだけではなく、酉の市で売られるのはもっぱら「縁起物の熊手」。本来は細い竹の先を鈎(かぎ)のように曲げ、扇形に組んで柄をつけた掃除道具ですが、酉の市で売られる熊手にはおかめの面や大判小判、千両箱、小槌に升といったきらびやかな縁起物がたっぷり飾り付けられています。
落ち葉などをかき集める熊手の用法から、酉の市の熊手は来年の福や財を掻き込んでくれると言われています。また、市が立つ大鷲神社(おおわし・おおとり)の「鷲(わし)」にちなんで、福や財を「鷲づかみ」にできるといういわれもあります。
一の酉、二の酉、年によっては三の酉まである
干支暦とカレンダーなどに使われる太陽暦は周期が違うので、酉の日は年によって日付が変わります。酉の市が立つ「11月の酉の日」も、年によって2回あったり、3回あったりします。11月最初の酉の日は「一の酉」、次の酉の日は「二の酉」というように呼ばれ、「三の酉」まである年は火災が多くなるといういわれもあります。
ただし、火災のジンクスには、酉の市で羽目を外してしまいがちな夫を引き止めるための妻の方便だったという説も。とはいえ、火の用心をするに越したことはありませんから、今なお受け継がれているようです。
熊手の買い方に「江戸っ子の粋」が
熊手を買うときは「値切り交渉」がならわし
酉の市の露店で大きく高額な熊手を求める際には、なんと「値切り交渉をするのが粋」とされています。縁起物を値切るとはむしろ無粋なようにも感じられますが、これにはちゃんと理由があるのです。
負けてもらった分は「ご祝儀」として渡そう
値切り交渉をして負けてもらったといっても「安く買えた」と、割引してもらっただけでその場を去ってしまうのはご法度。実は、負けてもらった分のお金を「熊手を売ってくれたお店へのご祝儀」としてその場でお渡しするまでが、粋な熊手の買い方なのです。
こうして買った客には、店側の音頭で手締めをするならわしもあり、来年の幸運を願う気持ちはいやがうえにも盛り上がります。
小さな熊手、神社の熊手は値切りの対象外
多くの人でにぎわう酉の市ですから、小さな熊手にまで値切り交渉を求めるのはむしろ無粋というもの。また、市の立つ神社などでお守りとして熊手を授けていることもありますが、ここで社務所へ差し上げるお金は「代金」ではなく神様への「お供え」ですので、値切るようなことはやめておきましょう。
買った熊手はどうやって飾る?
熊手は目線より高くなる位置に飾る
酉の市で買った熊手は縁起物ですから、その後の取り扱いにも気を付けたいところ。壁掛けフックやピクチャーレールなどを利用して、目線よりも高くなる位置で、目につきやすい場所に飾るようにしましょう。最近は、柄の部分を差し込んで壁に掛ける「熊手ホルダー」なども販売されているようです。
飾る方角にも気を付けたい
熊手は家やオフィスに神棚があるならその側、福を掻き込む意味合いでは入口となる玄関の側などに飾るのがおすすめです。他にも、例えば合格祈願中なら、志望校の方角などへ向けるのもよいでしょう。ただし、正面を北へ向けて飾るのは避けた方がよいでしょう。