日本はお中元やお歳暮といった贈答文化が根付いています。贈答のルールやマナーは全国共通となっていますが、地域特有の風習も目立ちます。今回は、近畿地方(※)のギフトマナーや地域特有の風習をご紹介します。
※対象地域:滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、三重県
近畿地方のギフトマナー①お中元・お歳暮の時期
お中元の時期は7月中旬〜8月15日
お中元を贈る時期は、全国的には7月から8月中旬までです。近畿地方では7月15日くらいから8月15日の間というのが一般的ですが、現代は早まる傾向にあるため、少し早めに手配しておくと安心です。
お中元を贈りそびれてしまったら、立秋(毎年8月7日ごろ)から8月31日までなら、「残暑見舞い」として贈ることができます。以下の記事ではお中元の時期を過ぎてしまった場合の、残暑見舞いの贈り方やのしの書き方を解説しています。
お歳暮の時期は12月10日~12月20日
お歳暮の時期は多少のバラつきはあるものの、全国的には11月末ごろから12月20日ごろまでに贈ることが多いようです。近畿地方では、12月10日ごろから12月20日が平均的なお歳暮時期ですが、地域によって若干の差異があります。地域差は、年々なくなりつつありますが、心配であれば地元の上司や親戚などに確認をしておくと安心です。
お歳暮は一年の最後のごあいさつではありますが、年末ギリギリなどの忙しかったり家にいなかったりといったタイミングで到着してしまわないよう、配送希望日時にも注意しましょう。お歳暮シーズンに間に合わなかった場合は、無理に年内に届くようにせず、「御年賀」として翌年にお贈りします。
近畿地方のギフトマナー②結納・結婚・引出物
滋賀県では、結婚引出物として「おちつきぼた餅」が用意される
滋賀県長浜市周辺では、引出物に「おちつきぼた餅」を用意します。これは紅白饅頭のことであり、京都を中心とした近畿地方で「嫁入りまんじゅう」の名で残っています。お嫁さんが嫁ぎ先で落ち着くように、との願いが込められています。
京都府では、「見合い扇子」という風習がある
もともとの「見合い扇子」は、お見合い結婚が主流だった時代に、お相手に依存がなく交際をはじめられるという意思表示に扇子を贈り合っていたという京都のしきたりでした。現代はかたちを変えて、結納前の意思表示として、男性は女性に金銀蒔絵扇子を贈り、女性は男性に白の儀式用婚礼扇(モーニング扇子)を贈り合うことを「見合い扇子」と言っています。
大阪府では、女性側から男性側へ記念品を贈るしきたりがある
結納とは両家の間で意志を確認し、婚約成立とするための伝統的な儀式です。近年では食事会等で顔合わせはしても、結納まで行うことは少なくなりました。
関西式の結納は新郎側の家が新婦側の家に対して金品を用意するものですが、大阪では新婦側から新郎側に対しても記念品を贈るしきたりがあります。
特に堺地方では、新婦側の受書(受け取った結納品の品目を一覧にしたもの)の上にタイピンを置き、新郎側が持参した富久沙(ふくさ)を乗せて渡すという習慣があります。
結納の考え方は、関東・関西でも違いがあります。以下の記事では、地域差のある結納の考え方や、結納金の決め方についてご紹介しています。
兵庫県では、結婚式当日に近所の人のお菓子を配る風習がある
兵庫県や愛知県では、結婚式当日にご近所にお菓子を配る「嫁菓子」「嫁入り菓子」「お嫁さん菓子」という風習が残っています。このお菓子は「寿」と書いた袋のなかに、せんべいやアメ、金平糖、チョコレートなどの小袋を詰め合わせたものです。
昔は餅まきのように家の屋根の上から盛大にお菓子をまいていましたが、現在はご近所へのあいさつとして手渡しするほか、職場や披露宴で配るものに変化しました。
奈良県では、結納の際に化粧品セットやハンドバッグを送る風習がある
奈良県の結納は、新郎の家から新婦の家に贈る「お化粧料」が、他県にくらべて高額なことで知られています。結納品の点数も他県より多く、その品の中に、化粧品のセットやハンドバッグが含まれることが多いのも特徴的です。
和歌山県では、地元の特産品を引出物として渡す風習がある
和歌山県は結婚式・披露宴の引出物に、特産品である南高梅の梅干しやかまぼこを入れることがあります。また、地方によっては、伊勢音頭に合わせてタイの乗った大皿を揺らす「鯛ふり」という余興が行われます。
三重県では、「迎え下駄」「迎え傘」の風習がある
三重県には「迎え下駄」「迎え傘」という風習があります。これは、結婚式の数日前に、仲人の婦人が新婦の家に、下駄と傘を持参するものです。結婚式の日が雨であっても、式に向かえるようにという意味があります。
近畿地方のギフトマナー③独自のお祝い慣習
大阪府や兵庫県のお宮参りの紐銭・帯銭
お宮参りは赤ちゃんとそのご両親、両家の祖父母で祝うのが一般的で、それ以外の親戚や友人などからお祝いをいただくことはほとんどありません。例外として大阪や兵庫では、赤ちゃんの祝い着や産着にご祝儀を結びつける紐銭(ひもせん)という風習があります。
帯銭(おびぜに)とも呼ばれるこの風習は、「生まれてきたこどもが一生お金に困らないように」という願いが込められています。
大阪府では、1割相当の現金をその場で返す「おため」と呼ばれる風習がある
大阪などの一部地域では、お祝い(結婚・出産・新築など)で現金をいただいた場合、その場で1割の現金をお返しする「おため」という習慣があります。おためは「お多芽」「後為」、あるいは「お移り」と呼ぶこともあります。結婚祝いの「おため」とそれ以外の「おため」では、紙の折り方が異なっており、区別するために「夫婦紙(めおとがみ)」と言うこともあります。
関西地方では、端午の節句(こどもの日)に「ちまき」を食べる習慣がある
端午の節句(こどもの日)の行事食は、近年では全国的に柏餅になりつつありますが、かつて関西では「ちまき」を食べることが主流でした。さらに、「ちまき」といえば関東方面はおこわを竹の皮で包んだものをイメージしますが、関西では甘くした餅を笹の葉に包んだものが一般的で、端午の節句で食べる「ちまき」も、甘いお餅のほうです。
和歌山県では、内祝いの熨斗(のし)を朱書きにする慣習がある。
和歌山県や三重県の一部地方では、お祝い・内祝いの贈答品ののしを朱書きにする習わしがあります。水引より上に記載する贈り物の目的(結婚、快気、入学、新築など)も、水引より下に記載する贈り主の名前もどちらも朱書きです。
近畿地方のギフトマナー④独自の葬儀マナー
京都中心の関西圏では、香典袋に黄白の水引を使用する慣習がある。
仏式の香典袋は白黒結び切りが一般的ですが、京都を中心とした関西・北陸地方では黄白結び切りが用いられてきました。葬儀から四十九日、あるいは一年忌までは黒白の水引を使い、それ以降の法要では黄白の水引といった使い分けも見られます。
三重県西部の一部地域では、「村香典」という慣習がある。
三重県の伊賀地域では、「村香典(むらこうでん)」と呼ばれる習慣があります。これは喪家の近隣家庭が少額(1,000円から3,000円ほど)の香典を出す制度で、故人と面識がなくとも一律で集金されます。人々の結びつきが強かった集落の相互扶助の習わしが残ったものと考えられます。
近畿地方では「黄白・おぼろ饅頭」を葬儀の返礼品に贈る慣習がある。
現代では配られることは減っていますが、葬式や法事で喪家から参列者へ配られる饅頭を「葬式饅頭」と呼び、地域によってさまざまなタイプがあります。近畿地方を含む関西地方では、黄色と白の饅頭を対とした「黄白饅頭」や、蒸し上げてすぐに表面の上皮を剥いた「おぼろ饅頭」が用いられます。